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正 義 正 義: ジャーナとゴブリン

(Part 6 of 10)

存知かとは思いますが、ドルイド僧の一族は正義の徳にその一生を捧げ、古代からこの地の高等裁判所を治める者たちでありました。そして、昔は彼らが国王の名の下にこの地を渡り歩き、高等裁判所に代わって巡回判事の役割も果たしておりました。高等裁判所の直接の裁きを必要としない事件に関しては、これらの巡回判事が判決を下しておりました。

ここに私がお話する時代、ジャーンはそういったドルイド族の巡回判事でした。彼女は旅の生活を恐れぬ力強い若い女性であったので、長老達は広く険しい領地を喜んで彼女に任せたのでありました。彼女は数多くの小さな町や村の間を行き来して、年に2,3度それぞれを訪れました。

さて、この領域内の大きいほうの町のひとつ、城壁に囲まれた山の要塞では、近隣のゴブリン一族との絶え間ない激しい戦いが続いておりました。この戦いの原因は近くの山道のコントロールと安全確保にあり、人間にとっては交易、ゴブリンにとっては略奪行為という、重要な意味がありました。この戦いがいつまでも終わらない最大の理由は知力と野望を兼ね備えたゴブリンの大将にありました。こやつは彼の縄張りに入ってきたすべての人間を数年にも渡り悩ませておりました。

ある日、町から出向いたパトロール隊が軽装備で少数のゴブリンの一味に出くわしました。即、戦いが始まりましたが、すぐにゴブリンを打ち負かすことができました。するとどうでしょう。その中で、問題の源である例のゴブリンの親玉を生け捕りにできていたのでした。パトロール隊の驚きと喜びといったら言葉に表せませんでした。

彼らは喜びいさんで、捕虜を町に連れかえりました。リーダーさえいなければ、山のゴブリン達はすぐ全滅することができ、山道はまた文明人の手による安全なものとなることが明白だったからです。町にゴブリン大将が運ばれるとすぐに大饗宴がはじまり、大量の強い山酒が(食べ物よりずっと多く)振舞われました。

飲めや歌えの大騒ぎの中でも、ひときわ皆が関心を持ったのは、どうやってこの捕虜を処分しようかという事でした。そして、この饗宴が続くうちにゴブリンをどうしてくれようかという話はどんどん膨らんで実際には実現不可能なものになっていきました。

そんな雰囲気の中、ドルイド巡回判事のジャーナが町にやって来るのを誰かが見つけました。いつしか、酔っ払い達の中でこの強暴な捕虜を国王の正義の裁きにより死刑にするのがおもしろいといった考えが生まれていました。そして、ジャーナが町に来る頃には、それが決まっておりました。

ジャーナが町にたどり着くと、薄笑いを浮かべた酒のにおいがいっぱいの集団が彼女を迎え、彼女の正義の裁きを受けるために悪名高き殺人者が捕らえられたと、ろれつの廻らない口調でまじめに伝えました。

ジャーナは、町中が行き過ぎた歓喜の中にあるのに彼女には冷たいエールのいっぱいも勧められないことを若干気にはとめながらも、他よりましな状態にある町のひとりを選んで、事件の概要を話させました。

事件の本質を把握したジャーナは、人々に裁判をやめるよう奨めました。「聞きなさい。ここには国王の正義を仰ぐ必要は見い出せません。このクリーチャーは戦争でつかまりました。戦争は名誉と武勇により治められ、正義はそこには介在しません。戦場で敵を殺したら、それは名誉ある行いとなるのです。もしたった今、町の長達が、こやつが何物であるかを認め、殺したとしても、旅人の安全と町の子供らを守る目的という慈悲の行いであったと呼ぶことができるでしょう。あなた達のやりたいようにしなさい。もし、法律と正義の道をあなた達が選ぶのなら裁きをしましょう。しかし、このクリーチャーのためには裁判は不要ですし、このような者の裁判により私の管轄の品位を落とすようなこともしたくはありません。」

そこにいた数人は彼女の常識ある言葉に動かされました。しかし、酒により混乱した多くの人々は裁判による余興を楽しめなくなることに激怒しました。さらに、何人かの若者は群衆を扇動するかのように、国王の正義による保護を受ける法的な権利を、ジャーナは彼らの社会から奪っているのだと言い始めたのです。すると、彼女の最初の言葉から数分とたたないうちに、再度ジャーナは暴徒を前にすることになってしまいました。しかも今度はより多くのしかもより怒りに満ちた群集です。彼らは、ゴブリンが国王の正義の下に裁かれることを要求しました。ジャーナは、これ以上議論をすると危険かつ意味がないことに気づき、また、より適切な解決策が好ましくとも、ひとたび要求されれば、国王の正義を人々から取り上げることは違法であることを知っていました。ですから、彼女は裁きのずきんを頭にかぶせ、ゴブリンを彼女の下に連れてくるよう命じました。ゴブリンが来ると彼女は言いました。「このクリーチャーは法の前で裁きを受けることになり、その命は正義のもとに裁かれることになりました。しかるに、判決が下されるまで、誰もこやつに手をかけてはなりません。」そして、彼女はゴブリンを頑強な部屋に入れ、見つけられる最もしらふで厳格な衛兵をドアに付けました。裁判は翌朝行われることになりました。

翌日、クリーチャーはジャーナの前に連れてこられ、国王の正義の裁判の開会が宣言されました。長い時間、ジャーナは証言を聞きました。町の人達はこのゴブリンとその種族により行われた数多くの殺戮と略奪の話をしました。それは恐ろしい話の数々でした。そして、自身の弁護の機会が与えられると、ゴブリンは怒りにつばを吐くばかりで、また、町の誰も彼の弁護に立つものはいませんでした。

ついに、ジャーナは裁きを下す印として手を上げました。「このクリーチャーはいかなる法律をも犯してはいません。こやつは単に自身の性質と種族の慣わしに従ってあなたの町に対する戦闘行為を押し進めたに過ぎません。これは正義の下に有罪とされる行為ではありません。こやつは釈放されるべきです。」

人々はこの言葉にびっくりすると同時に非常に怒りました。そして、ジャーナの裁きに対する非難の言葉をわめきちらし、判決に反してゴブリンをその場で処刑するよう要求しました。しかし、ジャーナは立ちあがり、頭巾を取りました。彼女の憤りの重々しさに群集は黙り込みました。「この場にリンチは許さない!」ドルイド僧は宣言しました。「私は昨日あなた達に合法的にこのクリーチャーを殺す選択肢を与えました。しかし、あなた達は余興の裁判を望んだのです。つまり、あなた達は、正義に委ねたのです。そうです。この問題は正義に属するものになりました。私の言葉に背いて危害を与えるようなことがあれば、この地は完全なる法の裁きを受けることになるでしょう。それどころか、徳の恩恵すら失うことになるでしょう。」

ここで、ジャーナの首を求める声も上がりました。しかし、多くの町の人は一夜明けて酔いから醒め、自分らの不敬虔な立場を理解し始めました。ついには、法と徳に従う気持ちが激情を上回り、ジャーナの裁きに従わなければならないことを人々は悟りました。しかし、多くの不満がありました。ゴブリンの親玉を釈放すれば、命と財産を代償とする戦争が再燃することは目に見えていましたから。

ジャーナは鎖につながれたゴブリンを山道の入り口まで連れていかせました。彼女は鎖の鍵を自ら握りました。そして、彼女と捕虜の立つ位置から、矢の届く距離の5倍の距離まで人々を離れさせ、クリーチャーが釈放されたときに誰も手を出せないようにしました。人々が引いたところで、ジャーナは鎖の鍵をあけ、ゴブリンに短刀を渡しました。(荒地に武器なしで生き物を放すことは違法になるからです。)そして、ゴブリンに行くように合図しました。

ゴブリンは走り始め、山の下の方からは人々の悲しみの声が上がりました。しかし、ゴブリンは何歩か行くと立ち止まり、敵意あふれる表情でジャーナを振り返りました。そして、ひとりの軽装備の若い女性を見て、ゴブリンは人間に対する嫌悪に我慢できず、ジャーナに強暴にも襲いかかりました。ドルイド自身も刃をひき、彼女は一対一の戦いでゴブリンを殺しました。自己防衛という法的な殺害です。しかし、彼女はひどい傷を受けました。

彼女は山の上から降りてくると、そこにいた愕きに満ちた町の人々には一言も声をかけませんでした。ましてや、その町に傷の手当てに戻ることすらしませんでした。その代わり、国王の道をまっすぐ歩き、一言も言わずに町を抜けていきました。

次にドルイド族が裁きをするためにこの町を訪れたとき、それはジャーナではありませんでした。

 

 
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