謙 譲: カタリーナと貴族の逸話
(Part 2 of 10)
カタリーナは、「羊飼い」でした。彼女にとってこの一言が彼女を表すのに十分な言葉でした。もちろん、彼女は美しく、賢く、そして仲間や彼女の持ち場を管理する人たちを敬う乙女でした。でも、彼女自身は他の人たちがどのように言っても、「羊飼い」で充分。カタリーナは羊の世話をする乙女でした。
彼女が世話する羊たちは彼女の所有物ではなく、マジンシアの街に住む裕福な貴族のものでした。彼女の仕事の見返りは丈夫な住居(とてもきれいに保たれてます)と定期的に与えられるマトン肉と羊毛で、肉と羊毛は自分で使うか、または市場で売っていました。
皆さんは、マジンシアの貴族の話をご存知でしょう。彼らは、裕福ときらびやかさを好みます。マジンシアの市民は、上等の羊毛の上着を着て分厚いマトン肉を食することはあっても、実際に生きた羊を自ら触ったりするようなことは絶対にありません。カタリーナは羊たちの、時に汚い世話をして、従順に彼女のご主人にその利益を届けるのでした。
悲しいかな、多くの偉大な君主がさらされたのと同じように、洗練されたスタイル感覚だけで迫り来る不幸から身を守ることはできません。カタリーナのご主人を知るもう一人の貴族が、無謀な投資と不運が重なり、その財産をすべて失い、危機に陥りました。彼は、友のもとに行き、彼の最後で最も大切な先祖伝来の家宝、他では見たことのない大きさと輝きを持つエメラルドを、カタリーナのご主人の持つ羊の群れの半分と交換することにしたのです。それだけの羊を購入すれば、生計を立てることができ、しかも将来それを増やすことも可能になるのです。
そこで、彼はエメラルドをカタリーナのご主人のもとに持っていきました。カタリーナのご主人は家の名誉となる貴重な宝石を手に入れられると心待ちにしていました。ふたりは羊を分けるために特別に設置されたプラットフォーム(貴族が羊の群がる地面の上で取引することなど考えられません)の上に立ち、下にいるカタリーナに指示を与えて、羊の群れを分け始めました。
しばらくすると、ふたりのやり取りはだんだん熱をおびてきました。羊を購入する側の貴族は、相手からより多くの羊を受け取ろうとして、自らエメラルドを取りだし、その傷一つない純粋さを論じ始めました。しかし、手を振りかざしたその瞬間(彼の不運はここまで来ていました)、宝石は彼の手からこぼれおち、羊の群れの中に落ちてしまいました。そこにいた成長半ばの子羊が、光り輝く宝石をあっという間に飲みこんでしまいました。
カタリーナはこの侮辱行為(もちろん彼女のせいではないのですが)に関して一生懸命謝りました。そして、彼らがこのために取引きを延期する必要のないことをはっきりと告げました。「私がこの悪戯小僧をしっかりと見張っています。1、2日のうちに宝石が出てきたら、私が宝石をすっかりきれいにして、あなた様のもとへお届けいたします。」
しかしながら、貴族たちは彼らの宝物がそのような不純な目にさらされることを我慢できません。彼女の計画は受け入れられないと言いました。
「そうですか。」カタリーナは言いました。「それではこの獣を本日この場で殺しましょう。そうすれば、すぐに宝石はあなた様の手に戻ります。この羊はマトン肉としてではなく成長させてラム肉にしようと思っていたので、残念ですが。」
しかし、貴族たちはこの案も受け入れることはできません。しばらく議論を重ねた上で、ふたりはこの不純な宝石は諦め、マジンシアの社会からその存在を永遠に抹消してしまおうと決めました。こうして、不運な貴族は打ちひしがれて家に帰りました。唯一の救いは彼の尊厳は守られたということでした。
マジンシアの貴族達のプライドが固持するばかげた感覚を充分承知しているカタリーナは、その夜、例の若い羊以外の羊の群れを寝付けさせました。例の子羊は特別な小屋に連れて行き、そこでしっかりと監視しました。時間がたつと自然の営みが働き、宝石は日の目を見ることになりました。カタリーナは鋤を使って宝石を取りだし、ライ麦ときれいな水でせっせと宝石を洗いました。そして、彼女は港にそれをもって行き、宝石の出所など気にせず、その重さと純度のみを気にする正直な商人を見つけました。彼は大変良い値段を付けて彼女に支払いました。カタリーナはお金の一部を自分の身の回りのものに使い、一部を本当に困っている人達に進んで分け与えました。ただ、お金のほとんどは不幸や病気に備えて蓄えておきました。こうして、彼女はその謙虚さによって、街中で一番尊敬され、一番裕福な羊飼いになったわけです。
あの子羊は、本当に立派な羊になりました。そして、長い間、群のボスとして生きました。彼は自身が気品あるものとして自覚していたようです。まあ、私が思うに(彼は知らなかったかもしれませんが)、ほんの少しの間、この羊はマジンシアで一番金持ちの羊だったのです。
没落した貴族?彼は、その後、借金を返すために自分の邸宅を売る羽目になり、施しを受けようと同族者を頼ったそうです。実際は、その自己憐憫に浸った情けない関係にふさわしい施ししか受けることはなかったようです。文字通り汚物まみれの財産で汚されてしまった、彼の尊敬されていた名を今日知る人はいないようです。