名 誉:デュプレとガーゴイル
(Part 8 of 10)
おそらく皆様は、究極の知識のコデックスが取り戻された後、ガーゴイル族がブリタニア社会の一員となったことをご存知でしょう。また、ロード・ブリティッシュとガーゴイルの王ドラクシヌソムの間に取り交わされた協定が、直ちにふたつの種族間のいざこざを無くしはしなかったということを、皆さんにお伝えしても、あまり驚かれることはないかもしれません。一部の無知な人間達はガーゴイルを嫌い恐れ続けましたし、また、一部の強情なガーゴイル達は怨念をもって人間を取り扱い続けました。
その頃、人間にとって最も悪名高いガーゴイルの戦士は、グラタグマレムといいました。一方、彼は自分の民族の間では、鋭い知識と猛烈な行動力で同様に有名でありました。ふたつの民族間に和平が訪れたとき、彼は同じ様な理念を持ったガーゴイルの荒武者達と共に小さな徒党を組んでアウトローとなりました。この恐ろしい部隊は地方の小作農家や農場などから略奪し、それを燃やすことに専念しておりました。さすがに無抵抗な敵を無差別に殺すということまではやりませんでしたが、多くの被害者達にとっては苦悩と損害と貧困の種となっておりました。
さて、ブリテンとユーの中間地点に、ある宿屋があり、ここは秋季産のエールで大変有名でした。このビールは本当においしかったので、多くの品位ある人たちがそのシーズンの新しい樽が空けられた後の2週間は休暇を取り、この場所に世話になるのが慣わしでした。すべてのゲストを収容するためにテントが張られ、毎年秋のその2週間、この場所はお祭り気分になりました。
グラタグマレムがこの宿屋を襲ったのはこの時期でした。彼と彼の一味は夕方に到着して、宿屋を囲み、すぐに幾人かの雇われガードを送り込みました。そして、彼らはすべての人間達に直ちにその場を去ることを命令し、さもなければ彼らの回りすべてを焼き尽くすとあざけるように伝えました。
これに対し、紳士の服に身を包み、騎士の剣を携えた一人の祭りの参加者が前に出てきました。そして、彼は言ったのです。「我が名はデュプレ、国王の騎士でありパラディンである。我は、ロード・ブリティッシュの御名により、お前達にこの違法な侵入をやめ、降伏することを命ずる!」
しかし、グラタグマレムは笑うばかり。「人間やガーゴイルを問わず、その名は俺の心に最も恐怖をもたらさないものだ。お前の降伏の命令など断る。」
(もちろん、これらは彼の言ったとおりの言葉ではありません。ガーゴイル達は彼ら独特の話し方をします。ですから、この逸話の中では、彼らの言語の複雑さを完全に再現することは避けることにしましょう。)
デュプレは報復しました。「それでは、この件は名誉をもって解決しようぞ。我はお前かお前の仲間の誰か一人と一対一で戦おう。そして、勝者がこの宿屋の運命を決めることとなるのだ。」
ガーゴイルはこの人間の大胆さを再びあざ笑いました。しかし、彼は言いました。「そうか、人間よ。お前の提案はおもしろい。お前は俺の仲間のうち3人と戦うのだ。もし、3人とも倒すことができたなら、俺の寛大さの報酬としていくらか没収させていただくだけで、この場を去ってやろう。」
そして、グラタグマレムは3名のつわものを選びました。1人目は鋼鉄のメイスを持った3メートルもあろうかというものすごい獣のような者でした。2人目はデュプレの背丈ほどあろうかという剣を持ったガーゴイル族の若い戦士、そして、3人目は2枚刃の戦闘用斧を両手にひとつづつ携えたグラタグマレムの右腕である副司令官でした。
しかし、デュプレは、ドラゴン、悪魔、巨人などの他、ガーゴイルも相手にしたことのある百戦錬磨のベテラン戦士でした。これらの敵の大きさや激しさに恐れることはありません。ひとりづつ戦い、最初の2人には重症を負わせ、最後の相手は直ちに切り殺しました。
この損失に対して、グラタグマレムはより楽しむだけのように見えました。そして、最後のガーゴイルが戦闘の地から引きずり去られるとこう言ったのです。「俺は自分の約束を守ろう。しかし、没収品は払ってもらわねばならない。騎士よ、俺が要求するのはお前だ!」
「これらの人々の安全のためなら、喜んで我の命をくれてやろう。」デュプレは答えました。「しかし、お前がそれを取るためにはまだまだコストがかかると心得よ。」
「いいや。」ガーゴイルは言いました。「お前の頭など獲っても何の役にもたたん。俺が欲するのはお前の腕だ。今日お前は副官を俺様から取り去った。お前があいつの代わりとなるのだ。お前は俺の部隊に加わり、お前の戦い方を俺達に教えるのだ。」
「我は我が国王とその民に対して武器を向けることなど絶対にできない!」デュプレは熱く答えました。
「そのようなことは頼みはしない。」ガーゴイルはふてぶてしいやさしさでこう言いました。「お前は俺達といっしょに来て俺の部隊を鍛えるのだ。俺達の戦いに逆らったり邪魔をしないと誓うなら、俺がこいつらに戦闘を命ずるとき、お前は戦場に行く必要はない。」
この時、デュプレはグラタグマレムの提案が彼のような名誉の男を完全な崩壊の道へと容易に導き得る悪魔の取り引きだと悟りました。同時に、彼は何もせずにそこに立ち、正直な宿家主がめちゃくちゃにされることを黙って見ているわけには行きません。また、たったひとりでガーゴイルの部隊に立ち向かうこともできません。そして、たぶん、彼にとって何よりも重要なことは、条件を呑んだ上で戦っていながら、その条件である没収品の支払いを拒むということが、完全に名誉高いこととは言えないという事実だったのかもしれません。時間稼ぎをすることで逃れる可能性を望むより仕方がありませんでした。「条件を呑ませていただこう。頭。」そう言うとデュプレはあざ笑う盗賊の前にひざまずき、彼の剣を捧げたのでした。
こうして、デュプレはガーゴイルと共に生活をしました。彼はガーゴイルを鍛え、教えました。彼が発見したのは、ガーゴイルは力強く、度胸があるのにもかかわらず、協調して行う戦法や戦略にはほとんど長けていないということでした。また、もうひとつ判ったのは、彼らのリーダーがしっかり見ているので、命令に関する知識を何一つ隠すことができないということでした。有益な専門的な戦術は隠そうとしても直ぐ見透かされ、分析され、そして皆に明らかにされたのでした。
また、デュプレはグラタグマレムが提案した、新たなる戦術を盗賊、海賊そしてゴブリンの徒党を相手に試そうという提案に対して彼の名誉により断ることもできませんでした。デュプレはロード・ブリティッシュの配下の者に対してのみ戦わないと誓ったからです。ということで、彼はガーゴイルと共に戦い、彼の訓練は戦火のもとで試されていったのでした。
しかし、ついに恐れていた日がやってきました。グラタグマレムは外壁に囲まれ、国王の部隊の兵士達が駐屯する町を攻めると言い出したのです。これは今まで企てたどの目標より手ごわいものでした。しかし、デュプレは、彼らなら(デュプレの教えのおかげで)勝利も可能であることを知っていました。
戦闘の日、デュプレは、自らの手により生み出した悪行から逃げ去ることができずに、破滅を待つ町を一望できる丘にひとり上りました。しかし、彼がそこで待っている間に、ガーゴイルの一群が思いがけずに彼のもとに来て、思いもよらぬ質問をしたのでした。
「副司令官殿。」彼らの代表が言いました。「俺達はあなたがすべての決定を名誉をもって決めていることを知っています。もちろん、それは俺達にとっては奇妙な考え方ではあるのですが、しかし、俺達としては今日のこの戦いが名誉深いものなのかどうかを知りたいのです。」
既に、デュプレはガーゴイルの鋭い知性の力を熟知していました。そして、変に隠したり思い留まらせたりしようとしても、彼らは直ぐそれに気付いてしまうことを分かっていました。また、そんなことをすれば、ガーゴイルの中で永久に彼は彼等の信頼を失うことにもなるでしょう。そして、また、彼はグラタグマレムへの誓いを忘れてはいませんでした。彼の計画を真っ向から邪魔することはしないということからも、デュプレはできるだけ素直に正直に答える必要がありました。
「おぬしらは、頭から、ロード・ブリティッシュは暴君だと教わっているだろう。もし、それが本当だとしたら、暴君に対して武器を取ることは不名誉とは言えまい。ただし、それは、おぬしらが本当にそれを信じているのならという条件付きのことだ。おぬしらは我等のように忠誠の誓いを立てることがない。おぬしらの頭は、自らの理由と自ら信じる正義により、あやつに従うよう、おぬしらによく申しておるのを我は聴いている。それがガーゴイルのやり方なのだ。そうして、今、おぬしらの心と考えで我のもとに来て今日の戦が名誉あるものかどうかを聞いている。もしやすると、その問いかけ自体が答えなのかも知れぬ。」
その後、ガーゴイル達は自分等で答えを議論するためにその場を去っていきました。そして、終いには3分の1近いガーゴイル達はグラタグマレムが攻め入る町での戦の参加を拒みました。さらに、意気盛んなひとりの若いガーゴイル(宿屋でデュプレが重症を負わせたあの若いつわものでした)は、駐屯地に自ら走って行き、これから起ころうとしている攻撃を事前に人々に警告したのでした。
このような状況下でも、冷酷な怒りに燃えたグラタグマレムはこの戦いを中止しませんでした。しかし、事前に警告され、準備を整えていた守備軍を人数の減ったガーゴイル軍が打ち破ることはできませんでした。グラタグマレム自身も討ち死んでしまいました。
そして、この戦いを拒んだガーゴイル達(加えて戦いに生き残った者の一部もでした)は、デュプレのもとに戻ってきて、今までと同じように盗賊や海賊やモンスター達を相手に戦うためのリーダーとデュプレがなり、そうして、ガーゴイルがすべての民のために役に立つことも可能なことを人間に示すことができるようにと彼等は懇願したのでした。デュプレはこれに同意し、彼はこの軍を「Locusts of Britannia(ブリタニアのイナゴ隊)」と名づけ、彼等は偉大なる名声を獲得し、長い年月すばらしい偉業を成したのでありました。