ケンタウリへの旅
EPISODE 6: パート2

指令棟に入ると同時に熱気と船内の危機からくる緊張がよみがえり、ガーランド船長は 運動後の快い開放感が身体から抜け出ていくのを感じた。プラヴィン・ラルはまだタッチスクリーンに背中を丸めて向かいあっていた。いつも冷静な彼の表情は、集中のあまりしかめつらになっていた。ザハロフは、彼の部下、コーサ少尉とウェッブ少尉を従え、指令棟の反対側にあるタッチスクリーンをのぞき込んでいた。ザハロフの額に汗が光っているのがわかった。

「ラル博士、4時間の休息を許可する。何か食べて休みたまえ。」 プラヴィンは見上げた。彼の黒い瞳は、まだコンピュータのデータの海をさまよっており、何を言われたかわかっていないようだった。

「了解です。しばしお待ちください。頼まれた医療記録を引き出している途中なんです。」 ガーランドはうなずいた。ザハロフからは何の反応もない。「ザハロフ博士、修理の状況はいかがです?」

「進行中です、船長。あと36.4時間あります。」彼は長い指で頭上のスクリーンにスクロールする白い数字を指差した。「私からの贈り物です。終末時計。」 「そうならんことを願うよ。君や君の部下とあと50年、宇宙で過ごすことがこのミッションの規約に入っていたとは思えんのでね。」

ザハロフはこわばった笑みをもらした。「さよう、我々は昼夜を徹して取り組んでおります。しかしここに、噴射テストという問題があります。これはちと危険を伴うが、避けて通れないものだと思われるのですが。」

「承知しておる。だがこれ以上船体や残りの乗組員を危険にさらすわけにはいかないのだ。君の部下の内もっとも優秀な者を5人、水耕栽培ユニット1にやり、船体の強度に関して調査してくれたまえ。なぜスカイが憂慮しているのかを探るのだ。これは我々の生命をはかりにかける以上に大切なことなのだ。」

「よろしい。」ザハロフはうなずいた。彼は腕に着けた通信ユニットに向かって、しわがれた声で一連の命令を下した。早口で技術用語を矢継ぎ早にまくしたてるので、ガーランドにはまるで外国語のように思えた。

ザハロフは命令を終え、船長の力量を測るかのように見上げた。 「さて、ここに船長がご覧になりたいかと思われるものがあるのですが。」 ガーランドはザハロフの持ち場へと歩み寄った。

「コーシャ少尉が、船体外部のカメラでとらえたこの船の記録をD7の長さに解析するため巻き戻しをかけていたのですが。我々はその録画のコマの列を、船体がダメージを受ける寸前のところまで巻き戻しました。ちょうどカメラの内二つが損傷を受ける寸前です。 ご覧ください。」

ザハロフのタッチスクリーンに、格子状に並べられた小さな高解像度の画像がいくつも映し出された。船内と船体の外側に並べられたカメラで、旅の記録を一秒ごとに録画し、圧縮して保存している記録を映し出したものである。ザハロフが画像の一つをクリックすると拡大表示されて、ガーランドはそれに見入った。 そのカメラは宇宙船の外側を映し出していた。滑らかな金属のアーチが人工の視界の中に映し出された。データリードアウトの記録によると船の速度は秒速3.359k/m、けたはずれの速度である。

「リスクは承知の上だったはずです。」ガーランドの内にわきあがる思いに応えるかのようにザハロフがつぶやいた。「この速度では、ごく小さな物体が衝突しただけでも核弾頭にやられたくらいのダメージを受けるはずです。」

しばらく時が流れた。そして

カメラの一つが未知の物体を関知し、自動的に角度を変えてズームアップした。ガーランドは身を乗り出した。彼の呼吸は荒くなっていた。被写体の光度に合わせてカメラは素早く倍率を上げていったが、いまだに何も見えなかった。もしかしたら取るに足らない破片かも知れない。あるいは宇宙空間の闇を漂うただの鉱石のくずかも知れない。

無意識に、ガーランドは片手を上げたその先には、ただ闇が空間を埋めるのみだったが、いきなり画面が揺れて静止してしまった。ザハロフがすぐに他のカメラに切り替えると、そこにガーランドが見たものは、彼の船の片側がこなごなになに砕け、あたかも見えない炎に焼かれたかのように金属片がゆがんで引き裂かれていく様子だった。

彼は爆発音や金属の引き裂かれる音、警告のサイレンを聴こうと耳をそばだてた。彼は船内の混乱や、冷凍カプセルが破壊されて生きた人間が冷たい金属の床に転がり落ちる様子を想像したが、もちろん何も聞こえてはこなかった。事の重大さが現実に思えるにつれ、彼の喉は締めつけられるようだった。彼の乗組員、彼の船、彼が導いていた生命、それらは彼が何もできずに眠っている間に粉々にされたのだった。

ガーランドがザハロフに目を向けると、彼は暗く燃える眼でスクリーンを見つめていた。 彼の頭には破壊の計算が渦巻いているようだった。ガーランドは話しかけた。 「あれは使えると思うが。」

「我々はあれを、この船体に与える最大のダメージを計算するのに利用しようと思います。今回のは宇宙に漂う一片の塵だった。単なる偶然の出来事なのです。」

「ビデオを頭まで戻してマークしてくれ。待った!」ガーランドはかがみ込み、画面の左下の枠を指差した。「あれはなんだ?」彼はザハロフの目の前で画像を拡大させた。

船内の奥深く、通路かどこかで複数の人影が動いた。よろめきながら、ひっくり返された衝撃から身を起こそうと、もつれて歩いている様子だった。黒い人影は、お互いに警戒しながらも身を潜めようと努めているように見えた。ガーランドの目に、ついに一人が身を立てなおし、素早く闇にまぎれて行くのが見えた。別の一人がそれを追う。

また一人。

また一人。

そして突然、カメラがオフになり、雑音だけが残った。

「私は知っていた。」画面の上で灰色の雑音が踊るのを見ながら、ガーランドが低い声で言った。

ログエントリー 受信、
プラヴィン・ラル、外科主任
現在ザハロフの元で、旅の始めからの映像記録を辿っている。あまり多くのことは得られそうにないが、興味深いことは確かだ。この映像記録は我々の歴史であり、我々が記憶を失っていた間の推移も見せてくれる。これはいわば、我々が次の人生を始めるためのプロローグである。

映像のほとんどは暗闇で、冷たく、空虚だ。限りなくそれが続いている。ザハロフの部下はみな眠っておらず、うまく眠気と戦っているようだ。彼等には刺激剤を処方しておいた。来るべき日にはどんなことでも必要になるはずだ。

<<<PREVIOUS
NEXT>>>