ケンタウリへの旅
EPISODE 33:
この船はばらばらになる寸前だ。ザハロフにはわかった。彼には隅々までわかっていた。 このミッション。「地球の社会」の最後。離れ離れになって行く。
彼は深いため息をついて前景を見るカメラを呼び出した。
前方には「惑星」がある。暗闇の中、静かに輝いている、真っ暗闇の中、夢の中に。
市民達が彼を取り巻いて立っていた...この勇敢なる新しい世界の、未来の市民達。彼等はザハロフを見つめていた。ある者は用心深く、ある者は恐れを抱き、ある者は希望と尊敬のまなざしで。こみ上げてくる大きな笑みを隠せなかった。普段の彼の眉間の皺は薄らいでいた。
他の者達には好きにさせておこう、あるいは地球での「空襲後の待ち合わせ地点」に集まる、生き別れた親類縁者達のように関係を修復するにまかせておこう。彼はこの乗組員達が、「惑星」でも彼に従って来ると信じていた。たとえ船の進行中に着陸ポッドが切り放たれ、ばらばらに着陸するとしても。
「科学の世界へ。心ある命へ。」彼はひとこと言った。そこに居た者達は彼を見た。鋭く、緊張し、彼の与えた希望が何であるかはわからないまま、それを求めようとして。 彼等は付いてくるだろう。彼は注意深く人選してあった。逆らう者があったとしたら、好きにさせておこう。
「切離し作業を起動せよ。」彼は命じた。
「了解。」フィッツァー少尉が応えた。「大佐の確認待ちです。」
ザハロフはディスプレイ上の状況をチェックした。「私はチェック済みだ。このコマンドはガーランド船長の承認なしには通らない。または、コンピュータが彼の死を確認しない限りはな。」 「了解です。我々はどうすればいいのですか?」
ザハロフはしばし空間を見つめ、空間で計算をしている様子だった。「しばし待つのだ。今は正に混乱期だと言える。環境の変化だ...新しい道が開けるだろう。もしも何も起こらなかったら、ロケットを噴射させて本体から切り放たれるだけだ。」
ザハロフはうなずいた。これが最上の方法なのだ。「各々の着陸ポッドは準備ができている。ユニティ号が切り離せば、それぞれのポッドは飛び出して行ける。ポッドのそれぞれは自立し、着陸できるだろう。その意味では、我々は独立していると言えるのだ。」
その少尉は困ったような顔をした。「それぞれが皆、近くに着陸できないのですか?」
「この船はこの通り不安定だからな。保証はできん。」
***
「保証はできない。」モーガンは集まった乗組員に向かって言った。「皆が船長を待っていたのは承知している。うむ、彼はどこにも見当たらないのだ。私は、皆がユニティ号内での私の立場を支持してくれたから、こうして皆のために来たのだ。私が皆に与えられるのは何であるか、わかっていることと思う。」
「もう一度始めるチャンスだ。皆のほとんどが地球で味わったことのある安らかさと富を得るためのチャンスだ。」
***
「やり直すチャンスよ。」ディアドラ・スカイは、集まった支持者達を見上げ、彼女を熱心に見つめる、彼女が最も信頼できる助言者達と眼を合わせながら言った。「「惑星」は待っているわ。純粋で汚れを知らぬ生物、まるでかつての「地球」がそうであったように。私達にとっては、故郷である「惑星」に対して犯した、言葉にはできない罪を浄化させるチャンスなのよ。これを逃したらもうこのようなチャンスは得られないわ。」
「これはまさにエデンの園...。」
***
エデンの園。ミリアムは冷凍ベイを急いで駆け抜けた。彼女を見守る神の眼の輪郭を、「惑星」の上に思い浮かべながら。そう。美しいわ。 彼女は立ち止まった。前方には冷凍ベイが広がり、その彼方で誰かが熱心に手を振って招いているのが見えた。
ザハロフだわ。私を歓迎しているのかしら?
彼女は隣接するベイへの通路を振り返った。
二人の乗組員がそこで作業をしていた。彼女が見ている中、彼等の一人がユニティ号の内壁のパネルを開き、回路を遮断した。彼女は轟音を聞き、振動が床と壁を揺さぶるのを感じた。 彼等は通路のトンネルを爆破してしまった。私はここに捕らえられてしまう!
ザハロフとその部下達に捕らえられ、彼等はその冷たい科学的な心で彼女の信仰に踏み入り、彼女の心を分析しようとするだろう。
そのイメージが彼女の心をよぎった...逆側のベイへの通路。
彼女はふりむくと走りだした。
彼女が走って行くと、かたわらの未開封の冷凍カプセルの群が一度に息を吹き返した。
***
シェン=ジ・ヤンの回りの、閉じたままの冷凍カプセルが一気に作動し始めたので、彼は飛び上がって驚いた。彼はすぐそばのカプセルを凝視した。ほの暗い人影が中でもがいている。彼の心は環境の変化に対応しようと必死だった。
彼の忠実な部下達は、完璧に注意を傾けて、彼の次の指令に備えて立っていた。
彼の眼が彼等を見渡した。
「抑制。混沌に見舞われた時に一番大切なことだ。君達はみなそれを知っている。」彼の声は穏やかなままだった。口調は言うまでもなく。「今目覚めてくる乗組員達はそうではないかも知れん。我々は彼等を一人一人隔離し、これからの重責に耐えられる状態かどうか、見極めるのだ。 「身柄を拘束する、という意味ですか?」乗組員の一人がおずおずとたずねた。ヤンの視線がゆらぎ、彼を見据えた。
「この船こそが牢屋だ。「惑星」も牢獄だ。君達の自由は心の中にだけ存在する。君達の思想こそが唯一の「道」なのだ。」
***
逃げ道。
サンチアゴは檻の中の動物のように、独房の中を行ったり来たりしていた。足元では船全体が揺れるのを感じていた。
エネルギーを温存するのだ、彼女は自分自身に命じ、歩き回るのをやめ、落ち着こうと深呼吸した。
どこへも行けない。誰かがこのドアの前を通ろうと通るまいと。それが仲間であろうと敵であろうと。彼女は歯を食いしばった。
その時、彼女はドアの外で物音がし、パネルが開くのを感じた。
深い茶色の目が中を覗いた。
***
プラヴィン・ラルは狭いパネル越しに、コラソン・サンチアゴの滑らかな顔だちを覗き込んだ。よく見ると、彼女の顔は反抗心に満ちていた。
なんと勇気のある!彼は思った。彼はサンチアゴが深く息をするのがわかった。が、彼女は落ち着いたままで、パニックを抑え、解決策を探しているようだった。
彼女には崇高なものを感じる。彼は思った。彼女は恐ろしい敵になり得るだろうが、力強い味方にもなるだろう。彼女はサバイバーなのだ。
だが、見方を変えれば、プラヴィンには彼女が別の世界に生きているということがわかっていた。彼は平和を信じ、彼女は暴力を頼っているのだ。
しかし、彼には彼女が必要だった。 「自由になりたいですか?」彼はドアのパネル越しにたずねた。
船内コンピュータより全ての乗組員へ
「惑星」に接近中。緊急着陸の過程アルファ・ワンからガンマ・セブンまで準備。
全員、付近の冷凍ベイを確認すること。