ケンタウリへの旅
EPISODE 31:パート2
「何の音だ?」モーガンが言った。 「音ですって?」ミリアムが言う。「ここは色んな音がしますわ。船のきしむ音、警戒のサイレン...。」
「幾千ものワルキューレの声も。」プラヴィンがつぶやいた、いらだち、しかしおとなしく。 「いや、私には聞こえる。鼓動だ。」ザハロフが言った。彼の目は指令センターのあたりを見据えていた。「変調しているが、ボリュームを増し、波長が...。」
「ここからです、ここ。」乗組員の一人ミズラ少尉が言い、指令センターから小さなミーティングルームに通じるドアに手を置いた。
「何か悪いことでも起こっているのだろうか?あぁ、神よ。」プラヴィンが言った。鼓動は今や激しい音に変わり、砕くような音が次々に押し寄せて、集まった乗組員達をゆさぶった。プラヴィンは歯を食いしばり、その音に飲まれまいとした。
その少尉は、興奮して何かを口走りながら「ハッチ開鍵」のボタンを押した。
ミリアムはドアから後ずさり、ラルはそのかたわらに立った。
その音はいきなり消え、高調子のキーンという音に変わった。その静けさの中、モーガンが言った。
「私ならあのドアを開けたりはしないぞ。」ミリアムは彼を見、ハッチが開くと同時に後方に身を投げた。
爆音が指令センターを揺さぶった。金属製のテーブルとプラスチックの椅子の破片が吹き出され、ハッチウェイを通り、指令センターをもうもうたる煙で満たし、その少尉を呑み込んでしまった。ミリアムは半身をその男の血しぶきにまみれて倒れ、ラルは身をひるがえして顔を覆った。
「破壊工作だわ!」ミリアムが叫んだ。ラルがその少尉の元に駆けつけたが、今や血の気のない褐色の肉と繊維質の組織のコラージュと化していた。インド人だった...。
突然プリアの面影が無意識に彼の脳裏を横切った。
「あれは何?」ミリアムが言った。
「“音速槌”だ。兵器のことだよ。」ザハロフが言った。「小さいが危険きわまりないものだ。あんな物をこの船に乗せるべきではなかったのだ。」
「密使をちゃんと捕獲しておいた?それとも...」ミリアムが言い、モーガンを意味ありげに見た。 「ばかな...。」モーガンが言った。「だが、ヤン博士!一体急いでどこへ行くというのです?」
ミリアムとプラヴィンの二人は辺りを見回した。ヤンはハッチに通じるドアのところに立ち、冷ややかな目で二人を見ていた。「この指令センターの損害は深刻だ。それに我々は「惑星」に近づいて来ている。評決の通り、わしは自分の着陸ポッドに向かう。」
「その決議はまだ承認されていないと思いますが...。」ラルは言ったが、その声は弱々しかった。 「見たまえ。」ヤンが言った。「我々は理想郷への準備もままならない状態だ。」そう言ってハッチは閉まった。
ザハロフが口を開いた。「彼の言い分は正しいな。この船のシステムの大半は壊れている。着陸ポッドに乗り移ろうではないか。そこからでも脱出の手筈は整えられるはずだ。この指令センターは、そもそも「惑星」まで我々を送り届けるようにできてはいないのだ。」
「どうやってあなたを信用しろとおっしゃるの?」退出ハッチへと急ぐザハロフに、ミリアムが鋭く切り替えした。
ラルが片手を上げた。「彼は間違っていませんよ。着陸の手順は自動化されています。この指令センターは私達が「惑星降下」を果たすために作られたわけではないのです。この船は分割されるべきなのです。」
ミリアムは彼を凝視し、やがて視線を落した。「この男が死んだのですよ。」彼女は言い、そして目を閉じた。犠牲者に触れたミリアムの指は血に濡れていた。ラルは頭を振り、立ち上がった。「私は第5ベイに行きます。」彼は言った。
「そこにはサンチアゴの部下がいるのでは?」ミリアムがたずねた。
「私は切り札を持って行きます。」彼は退出ハッチに向かった。「あなたも来ますか?」 彼女はラルを見上げた。ラルは国連の移民計画の失敗の重さに疲れ果てた様子だった。「ええ、たぶん。他に行く所もありませんし。」
「安全なベイに急ぐのです。私は行きますよ。」彼は出口へと向かい、彼女もそれに従った。 彼等の背後で、居並ぶパネルが火花を吹き燃え上がり、緊急防火システムが作動し、指令センターを雪のような白煙が包み込んだ。