ケンタウリへの旅
EPISODE 19:
「ダナ。志願者がここに。」カッシアーノ少佐は、第四冷凍ベイのほの暗く広い領域にある冷凍カプセルの一つを覗き込んだ。ポータブル・タッチスクリーン上の目録と、カプセルの足元に刻まれたナンバーをマッチングさせた結果
である。
「ドクター?」
「そう。ゲイル・ナンバーラ。」彼は自分の袖口で表面の霜をぬぐい、ほの暗いカプセルの中を覗き込んだ。「32歳、115ポンド。かなり良い状態だな。事実、地球上での彼女のことも覚えてるんだけど、このベイの中では最上のアイスキャンディーだな。」
「ほんと?」ダナはむっとして見上げた。「生存器官の調子は?」
「最高だよ。覚醒のリストに挙げていいかな。」
「もちろん。」ダナはすでに興味を失った様子でベイを通り過ぎ、もっと暗い見たことのないエリアに踏み込んで行った。カッシアーノは「墓石」と呼ばれる冷凍カプセルの枕元にある小さなコンピュータにコードを入力して覚醒作業を始めていた。
「ねぇ、ダナ、今日僕の誕生日だって知ってた?」
「お誕生日おめでとう。」ダナの口調に皮肉はなかった。「75歳になった感想はいかが?」「75だって?冷凍睡眠も計算に入れて?」彼はしばしじっとしていたが、思いをめぐらしたようだった。「畜生、そんなに年をとったとは。」
「口直しにこんなのいかが?」
彼のクィックリンクがビープ音を発し、彼が覗き見るとポータブル・スクリーンにバースデー・ケーキの画像が現れた。次の瞬間、頭上に「ゲイル・ナンバーラ博士」という言葉を掲げた女性のアニメーションが飛び出してきた。彼はにやりとした。「わかった、わかった。職場でセックスを連想するなんて、20世紀の遺物みたいにすたれた考えさ。」
「まさか、ひどい!」ダナの声が彼の空想をさえぎり、彼はおもてを上げた。彼女はスクリーンパネルにさえぎられた、隣の冷凍カプセルのセクションに移動していたので、何がいけないのかわからなかった。彼がスクリーンを通
り過ぎて彼女の元に急ぐと、そこは死人の国だった。
このセクションの壁の明かりは一つもついておらず、どの冷凍カプセルからも、薄青い光はもれていなかった。「電源コードが切断されたに違いないわ。」ダナが言ったが、暗がりの中ではカッシアーノには彼女の表情は読み取れなかった。彼女が前に進み始めたので彼も後を追った。何列も連なる、早まって解凍されたカプセル達、腐りゆく死体がどろりとした液体の中に浮かんでいる。二人は死の庭園の中を進んでいく。
「わかったよ。」彼は静かに言った。「おそらくこれは...。」
「待って、」ダナが止めた。彼はダナが暗がりの中にひっこめて置かれている一つのカプセルに向かって行くのを見た。それは壇のような物の上に置かれており、他のカプセルよりはわずかに高い位
置にあった。小さな黄色がかったオレンジのライトが奇妙な模様を映し出していた。カッシアーノはまるで霊廟か祭壇に近づいて行くような気分になった。
もしもあのライトが作動しているなら、おそらくあのカプセルは機能不全にはなっていないだろう。カッシアーノは、素早く彼のタッチパネルをスキャンし、冷凍ベイの概略図を辿った。「データリンクのどこにもこのカプセルの記録はない。おかしいな、まぁ発射の時はみな大騒ぎだったが。おそらくデータバンクからもれた情報もあるんだろう。」
「どうしてこれだけが他のと離れたところにあるのかしら?」
カッシアーノは肩をすくめた。「おそらく他の奴らとうまが合わなかったんだろうよ。」彼が近づいていくと、突然タッチパネルの上で彼の拳が白くなっているのに気づいた。ダナはカプセルに近づいた。「この壇はこのセクションをコントロールする回路のウェーハーなんだわ。普通
、これの上には貯蔵箱かなんか置くのだけど、それは他の目的で使われたみたいね。」
カッシアーノはカプセルの真上からのぞき込んだ。暗がりの奥の奥に誰かがいる。黒っぽい人影が見えた。「墓石」と呼ばれるコンピュータは暗い。彼はガラスに手を当ててみた。冷たい。「これは機能してるぞ、だがコンピュータは働いてないようだ。何も情報を引き出すことができないな。脳や組織にダメージを受けているかもしれないし。もしも一回解凍してまた凍ったとしたら...。」
ダナは小さなコンピュータをいじくりまわしたが反応はなかった。カッシアーノが再び言った。「エンジニアに連絡してこいつを働かせてもらおう。そうすれば解凍作業ができるかもしれない。」
「そのポインタペンを貸して、」ダナが言った。カッシアーノは反射的にそれを伸ばして渡した。「ちょっと静かにしててちょうだい。」
ダナは金属の入力ケーブルを外し、下側を調べた。彼女はポインタペンを突き立ててねじり、コンピュータの裏パネルを外し、小さな銅でできたチップの接点に触れ、コンピュータと外したケーブルとを接続した。
冷凍カプセルの下から、奇妙な黄色いライトがなめらかなガラスの形状に影を投げかけ、長い指のように閉じた。一体誰が入っているのだろう?
「こんなにすぐに効くとは思わなかったわ。」ダナがささやいた。「ラル司令官に知らせなくては。」カッシアーノはうなずいた。ダナはしばらく見つめていたが、すぐに振り向いた。「行きましょう。」彼女は静かに言った。